坂を降りきれば、そこが旅館「大黒屋」の駐車場(右)
明るい陽射しのなかで、堂々とそびえ立つ黒い木造建築。
開湯1384年という歴史のある温泉で、白河藩主・松平定信も愛したという、奥甲子の一軒宿です。
僕の目当ては、深さが1.2mもあって、立って浸かるという大岩風呂だ。
ハンドルカバーを外していると、立ち寄り客が利用できる時刻になった。
はやる気持ちを抑えて入館する。
受付で入浴料を支払うと、廊下の突き当りからサンダルに履き替えて、階段を降りてゆく。
1、2、3、4…と、階段を数えてゆく。
空気がだんだんひんやりとしてくる。
湿気も凄い。
この湿気に負けないように、階段の内部はプールのような防水塗装だ。
結局、84段の階段を降りて、ついに谷底に到着。
扉を開けると、眩しい陽光のなか、橋を渡った先に湯小屋があります。
しかし深い、ほんとうに深い谷の底。
見上げても、繁茂する草木の壁が見えるだけで、首が痛い。
渓流のせせらぎと、カジカガエルの鳴き声が涼しげだ。
湯小屋の下駄箱はがらんとしていて、嬉しいことに僕が一番乗りだった。
確かに岩風呂はデカい。
パンフレットを見ると、5m×15mもあるそうだ。
浴槽の奥に、くり抜いた壁から流れ込むように石塊がある。
これが子宝に恵まれるという伝説のある「子宝石」で、ここから源泉が浴槽に流し込まれ、縁からあふれ出ている。
脱衣場はなく、湯船のそばのついたての後ろで服を脱ぐ。
簡単に身体を清めると、浴槽に。
お湯はやや青みがかった透明で、温度はぬるめ。
泉質は弱アルカリ性低張性高温泉ですが、石膏成分が多く、石膏泉と言っていいでしょう。
信州野沢温泉と同じ石膏泉。
さらさらとした肌あたりです。
大きい浴槽はどこでも座り放題(?)でしたが、源泉が出ている子宝石のそばに陣取ります。
深さ1.2mというのはやっぱり深い。
浴槽の石段に浅く腰かけて、足も腰もは伸ばしっ放しでも、首はお湯の中だ。
「元湯甲子温泉 旅館・大黒屋」
0248-36-2301
福島県西白河郡西郷村
大字真船字寺平1
入浴料¥700-
デカい浴槽に、ただ一人。
しんとして静か。
首まで浸かって、流し込まれるお湯の音を聞く。
カジカガエルの「フィーフィー」という鳴き声も心地よく耳に届く。
窓から差し込むやわらかな陽光。
その光のなかに立ち上る湯気を眺める。
無意識に子宝石をなでている。
一人でほくそ笑む。
おやじは伝説のように子宝に恵まれることはないけれど(笑)これだけ極上のリラックス感を得られれば、“宝物”を得たような嬉しさである。