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 土呂部の山奥へと進みます。
 R249は果てしなく続く、険しいワインディング。
 傾斜がどんどんきつくなる一方で、木々も密度を増して、好展望は望めません。
 また崖の養生もワイアネットを被せただけなので、崖からこぼれ落ちた砂粒が、ネットをすり抜けて道路に落ちています。
 路面状態はけっして悪くないものの、この砂粒があるせいで走り辛い。

 転んだらつまらないから、ゆっくり行きましょ。
 アクセルグリップを調整しながら、マイペースな走行。
 柔らかい排気音を楽しみます。
 HARLEY-DAVIDSONの984cc。
 けっして新しい設計とは言えないエンジンの鼓動が、身体に響きます。
 最先端技術、いわゆるハイテクからはけっして得られない、ソリッドな手応え。
 そしてヘルメットのなかに届く、濃密な森の香り。
 真夏が近いことを感じる、強い陽射し。
 この瞬間に感じるのは、ほとんど宗教的とさえ言えるほどの恍惚です。

←ようやく谷側の木が途切れたところが見つかり、遠望が臨めました。
 ずいぶんと登ってきたんですね。
 遥かに臨むのは、ここ栃木県と福島県との県境。
 あのあたりが中央分水嶺(太平洋側と日本海側とを分かつ、水系の境界線)でもあります。
 地図を見て気づいたのですが、土呂部の峠は過ぎてしまっているようです。
 そうするうちに、ふいに視界が開けました。(→)
 迫りくる山々と、深い谷。
 秘境らしい演出。
 でも、こういうダイナミックな光景のときは、自分が絶壁の突端にいる時だよな…
 ホラ、果たして愛機を降りて谷を覗き込むと、眼がくらむほどの絶壁!
 お尻がキュンとなります。
 愛機の背後の岩が、ちょうど船のへさきのようになっていて、下に続く崖は、足元にぐっとえぐれています。
 眼下には、これから降りてゆくヘアピンカーヴが幾重にも重なって見えました。
 ガードロープも腰までの高さまでだし、落ちたらお陀仏です。
 いまさらそーっと動いても意味がないのですが、静かに愛機に跨って、路肩を離れます。
 この場所を過ぎると、こんどは谷に落ちてゆくヘアピンカーヴが始まります。
 身体がつんのめりそうです。
 エンジンブレーキで、車体がガクガク震えます。
 これだけ高低差のあるヘアピンカーヴも久しぶり。
←やっと、谷の一番下で、停車。
 見上げると、頭上におおいかぶさるような崖は、巨大タンカーのへさきのよう。
 壁面は見事なほどに、ワイアネットでぐるぐる巻きにされていました。

 土呂部峠越えは険しいルートでしたが、面白かった。
 平家の落人は定住したあとも、いつ源氏の追手が来ても逃げやすいように二方路を確保したのでしょうが、このルートは明らかに裏道のほうでしょうね。
 坂を下ると、ふたたび道に電柱が現れます。
 そしてついに湯西川温泉にたどり着きます。